地域の潜在資源である「町屋」に光を当てるイベントで観光・交流に大きな成果
「村上町屋商人会」
村上市は新潟県最北の市で、かつては村上藩の城下町として栄え、県下三大祭の一つとして数えられる村上大祭や、村上茶(北限の茶どころ)、三面川の鮭(伝統漁法・加工法)、村上堆朱(漆器)など独自の伝統文化や産業が今に残るまちである。
村上の町並みはこれまでに大火や戦災を免れ、市中に城(城跡)、武家屋敷、町屋、寺町という城下町の四大要素が残る全国的に希少な例として専門家からも高く評価されている。
従来、市は「やさしさと活力に満ちた観光文化都市」を標榜し、武家町における武家屋敷の保存や修復・移築、生垣の再生等に力を注いできたものの、市内に300軒ほど残るといわれる町屋については、観光資源としてはほとんど重視してこなかった。村上の町屋はこれまでの商店街整備によって、外観はある程度近代化されているが、一歩店の奥に進むと、囲炉裏や梁、大黒柱に神棚、仏壇、そして豪快な吹き抜けの造りが現れ、江戸時代にタイムスリップしたような感覚を呼び覚ます。しかし、現在も人が住み、日々の生活や家業を営むこの町屋の内部こそが村上の宝なのだということに気づく人は、商店主の間でもほとんどおらず、「暗くて寒くて不便なただの古い家」という認識しかなかった。
平成9年頃、町屋の多く残る町人町に道路拡幅を伴う大規模な区画整理事業の話が持ち上がった。この事業が実現することは、伝統的な町屋の消失を意味するものだった。
村上市内で代々伝統的な鮭の製造加工販売を営む会社の後継者であり、後に村上町屋商人会を立ち上げることとなる吉川真嗣さんは、東京でのサラリーマン生活からやむなくUターンしたこともあって、商店街の活動に必ずしも積極的ではなかった。しかし、全国町並み保存連盟会長であり会津復古会の創設者でもある会津若松の五十嵐大祐氏との偶然の出会いをきっかけに、沈滞する村上のまちを町屋の魅力をもって再生しようと思い立った。
平成10年、吉川さんは町人町の店舗を1軒1軒巡り、町屋の内部を観光客に見せてもらうよう呼びかけ、これに賛同した22店舗の参加により「村上町屋商人会」が結成され、吉川さんが会長となった。22の店舗は、和菓子、鮭珍味、地酒、郷土料理、染物、工芸品など、村上の伝統産業に携わる老舗が主体であった。吉川さんの手描きデザインによる町屋散策マップ「城下町村上絵図」を製作し、新聞に折り込んだところ、予想以上の反響を呼んだ。
この取り組みは、「今まで店先だけで帰していたお客様を一歩中の町屋まで通して内部を見せる」というシンプルな活動ながら、町屋という歴史的建造物をまとまった数で、常時無料で公開するというのは全国的に見ても珍しいことで、様々なマスコミに取り上げられ、近隣県のまちづくりグループの視察が訪れるなど、活動開始当初から話題となった。同時に、地元の観光ボランティアグループが、マップを手に改めて商人会の店を巡って町屋の魅力を再確認したり、市役所若手職員が観光資源としての町屋を捉え直そうと実際に現場を廻るなど、地元の人々の間でも、町屋の価値を再評価しようという動きが現れてきた。
町屋に対する村上内外の関心が徐々に高まる中で、吉川さんら商人会のメンバーは、特定の期間に集中して多くの人を呼び込む、村上活性化の起爆剤として、平成12年3月、「町屋の人形さま巡り」という催しを企画した。これは、町屋の茶の間にそれぞれの家に伝わる人形を飾り、お客様に巡って見ていただくというもの。当初は古い雛人形を飾る計画だったが、企画書を手に1軒1軒の店に参加を呼びかける中で、雛人形に限定せず様々な人形の参加を受け入れることになり、催しのバリエーションと量感が増すとともに、参加店の拡大にもつながった。行政からの財政的な支援は一切なかったが、テレビ・新聞等のマスコミを活用するとともに、商人会を中心とした実行委員会が告知・宣伝のための大きな力となった。
第1回の「人形さま巡り」は60軒の店舗(一部個人宅も含まれる)の参加により開催された。告知のための十分な下準備と、1ヶ月間(3月1日〜4月3日)という長い会期による口コミでのリピート客もあって、約3万人が来場する大盛況となった。また、それによる経済効果はある外部機関の推計によると、1億円以上と評価された。
生活空間である茶の間に家伝の人形を飾り、家の人が人形の由来を説明するこの催しでは、それぞれの家のお年寄りによる丁寧な説明がお客様に好評である。リピート客の中にはただお人形を見るだけでなく、「あの家のおばあちゃんにまた会いたい」とやってくる方が多いという。お年寄りやその家族たちにとっても、お客様に町屋での暮らしや人形の説明をすることで気持ちの張りが生まれ、町屋の価値を再認識するとともに、ぼけ防止にもなると好評である。
「人形さま巡り」はその後毎年開催され、参加総数も75軒(平成19年実績)まで増えた。活動当初より、「地域活性化大賞」の受賞(平成12年度、翌13年には過去10年間の最高賞であるベスト・オブ・ベスト賞も受賞)、商人会副会長で染物店を営む会員がデザインした切り絵ポスターの新潟広告賞・優秀賞受賞(平成14年)、JR東日本との連携による「SL村上ひな街道号」運行(平成14年)、「総務省・地域づくり総務大臣表彰」(平成16年)など矢継ぎ早に話題を提供し、来場者数は順調に増加中である。
第2回の「人形さま巡り」以降、それぞれの参加店では、来場者による売上増はもちろんのこと、お客様が土産にしやすいように商品の工夫(詰合せ、小口商品等)をする店、廃業・閉店を思いとどまる店、都会に出ていた息子が家業を継ぐ気になった店など、様々な変化が現れてきた。商人会では「地域活性化大賞」の賞金100万円で人形の写真集を製作し観光客に販売することで、行政に頼らずに開催費用を捻出するシステムも作り上げた。
吉川さんには、春の「人形さま巡り」に加え、秋にも集客の核になる催しが必要との考えがあった。「人形さま巡り」の第1回、第2回の成功を受けて、平成13年9月には、「町屋の屏風まつり」を20日間あまりに渡って開催した。この「屏風まつり」は、年に一度の村上大祭の際に各家に伝わる屏風を立てるというまちの風習を復活・洗練させたもの。蔵の中に眠る屏風や道具類などを茶の間に展示することで、春の「人形さま巡り」とはまた異なる趣がただよう催しとなった。こうして、春の「人形さま巡り」と秋の「屏風まつり」という村上の町屋を舞台にした2本柱が打ち立てられ、村上の知名度がさらに広まることとなった。
村上の潜在的な資源である町屋の内部に光を当てたこれら一連の取組とともに、吉川さんは、他にも「十輪寺えんま堂の骨董市(平成13年より)」、既存のブロック塀を黒い板塀に改修して町並みを美しくする「黒塀プロジェクト(平成14年より)」、黒塀の小路に竹灯籠を灯して夜の散策を楽しむ「宵の竹灯籠まつり(平成14年より)」、市民基金を設立して町屋の整備再生に取り組む構想の「むらかみ町屋再生プロジェクト(平成16年より)」など、様々な取り組み(それぞれの事業は商人会以外の団体・組織が主催)のリーダー、中心メンバーとして活躍している。町屋の再評価から出発した村上のまちおこしは、点から線、線から面へと展開し、市内外の多様な人々の交流を促している。現在では、国認定の「観光カリスマ」として各地を講演で忙しく飛び回る吉川さんだが、そうした活動も、地元村上で彼を支える商人会の力強いメンバーたちがいてこそのものであろう。
「村上町屋商人会」
副会長・事務局 山上 あづさ
TEL 0254-52-3570










